2013年10月6日日曜日

世界の注目集める「おもてなし」 風土に醸成された心 東京五輪決定1カ月

2020年東京五輪を決めたIOC総会の最終プレゼンテーションから、7日で1カ月。ニュースキャスターの滝川クリステルさんによるパフォーマンスで脚光を浴びた「おもてなし」への関心が高まっている。来日する外国人が絶賛するほど、日本のおもてなしは深められてきた。外国人には簡単にはまねのできない文化だが、その背景には日本独特の風土がある。(西尾美穂子)
絶賛
 日本人にはおなじみの光景が、外国人ビジネスマンには心のこもったおもてなしと感じることがある。
 9月中旬、仕事で来日したフランス人のエリザベス・ボールディンさん(50)。会社の同僚らと東京・赤坂の和風レストランを訪れ、席に着いたときだ。
 「カタッ」。足元に置かれた大きめの1つの箱。不思議そうに見つめると店員から英語で「荷物をお入れください」と説明され、目を丸くした。
 仕事柄、世界各地を訪れ、レストランの接客にはことのほかうるさい。だが、床の汚れからバッグを守る箱を初体験し、「完璧な接客を受けた夜だった」と絶賛。「日本のおもてなしは、思慮深くて尊敬の気持ちが込められている」とまで言うのだ。
接客以外もある。同じころ、1週間ほどの日程で観光に来たスイス人のメリアン・キュアンさん(42)が滞在先のホテルから銀座や東京タワーに繰り出すため、地下鉄に乗ったときだ。




 「G09」「M17」…。英語、数字、色で区別された駅や路線の表示に目がくぎ付けに。「日本語が少ししか話せなくても、簡単に目的地への行き方が分かる」。世界各国を旅してきたキュアンさんは「どこでも迷わず行ける国は日本ぐらい。とても素晴らしいもてなしだ」と感激。「ずっと住んでみたいほど日本が気に入った」と話した。
過剰
 平成9年に初来日し、都内で働くカナダ人のセス・ラドキさん(36)は、店でおつりをもらうときの店員の作法に着目。「外国ではおつりが出たときに店員はカウンターに投げるように返す。日本では両手を添えてくれる」と話す。
 ポータルサイト「ヤフー」によると、9月7日のIOC総会でニュースキャスターの滝川クリステルさんがプレゼンして以降、「おもてなし」という言葉の検索回数が急上昇した。身近過ぎたおもてなしの価値に、日本人自身が気づいたのかもしれない。
ただ、気になることも。ラドキさんはおもてなしが過剰と思うときがある。
 「いらっしゃいませ」。開店と当時に開いた百貨店の扉の先に、居並んだ店員が深々と頭を下げる。「僕はそんなに偉くない。場違いなところに来てしまった」と感じ、そのまま引き揚げてしまった。
伝統
 やりすぎと思わせるほどの日本人のこだわり。心を持って行為を成すという意味から「お持て成し」としたり、「表面的ではなく本心で」の意味から「表なし」とも表されたりすることがあるおもてなしは、どのように育まれてきたのか。
 東北学院大の斎藤善之教授(商業史)は「歴史や伝統から生み出され、日本で育てば自然とおもてなしの感覚が醸成される。外国人にとってみれば一朝一夕ではまねができない文化だ」と説明する。
 ホスピタリティ教育学会の服部勝人会長は、おもてなしが深化した背景について、鎖国で海外の影響を受けなかった江戸時代が長らく続いた点を指摘。「雨の日、狭い路地をすれ違う者同士が傘をわずかに傾ける『傘かしげ』といった、相手を思いやる『江戸しぐさ』のように、狭い地域に人々が密集した日本独特の風土の中で培われたのではないか」と話している。
7年後生きる気遣いの積み重ね
 酒席で空になった上司のコップに気づかず、傍らで楽しそうに話し続ける部下-。東京の老舗料亭の長男として生まれ、百貨店「三越」時代に米フロリダのディズニーワールドに出向するなど、もてなしのプロである上田比呂志さん(53)はこうした光景を見て、日本人からおもてなしの心が薄れていると感じることがある。
 「型だけが先行してマニュアル通りにしかできない人が多い。相手の気持ちになって対応できていないために、外国人も『過剰だ』と感じてしまうのだろう」
 日本人はもともと、場の雰囲気や他人の気分を読み取る、形のはっきりしない空気を感じる力が強い。
 本来の力を引き出すには、洗面台を使った後に、次の人のことを考えて周りに飛んだ水を拭き取るなど、日頃から些細(ささい)な気遣いをすることが大事という。上田さんは「7年後の東京五輪に向け、心のアンテナを立てて生活すれば、見えないものが見えてきて質の高いおもてなしができるようになる」と話している。

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